企業内診断士Rのブログ

診断士登録7年目。企業で働く中小企業診断士のブログ。

ソフトバンク決算にみる非公開会社のバリュエーション

診断士Rです。

 

今月は決算シーズンでしたね。私もそこまで他の会社の決算を気にしている訳ではないのですが、毎回ソフトバンク(グループの方です)の決算は見ています。

兼ねてから報道等はされていましたが、ソフトバンクグループは今回ファンド事業で巨額の投資損失を計上し2019年度の営業利益は▲1.4兆もの赤字でした。ファンドの累損はまだ▲0.1兆円ですが、約9兆円もの種銭を投じている訳ですから出資者にとってみればたまったものではないでしょう。

 

さて、お題目に戻りますが、現在我が国の中小企業の後継者不足を解消する手段としてM&Aが有力視されているのは診断士の方ならご存知と思います。そして、M&Aの際に必ず必要となるのは企業価値の算定、すなわちバリュエーションです。中小企業は基本的に非公開会社ですから、算定手法が重要になります。診断士試験でも概要は勉強しますが、バリュエーションの方法には純資産法やDCF法等がありますよね。

 

ソフトバンクでも、過去Wework問題が火を噴き始めた時に、企業価値評価・投資判断の基準をプレゼンに差し込んでいたことがありました。

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SoftbankGの投資判断基準(2020年3月期第2四半期決算説明会資料より)

実は実務におけるプライベートエクイティ(=非公開株式)の価値算定に良く使われているのは、純資産法やDCF法ではなく「マルチプル」と言われるものです。マルチプルというのは、ある特定の指標に対して企業価値が何倍か、というもので、指標には良くEBITDAとかが使われます。孫さんは唯一妥当な指標として、FCF(フリーキャッシュフロー)で見る、と言っていますね。

GAFAを初めとする安定期に入ったIT企業は、平均すると「FCFの25倍の企業価値」があり、またそうした会社は「年30%の売上成長率」があるので、将来、例えば5年後に年$1bnのFCFを生み出す(=$25bnの企業価値がある)企業の現在価値は$7bn、リスクを見ても$4bnなら買いだ、ということを説明会の中で言っています。

※正確には、上記は投資判断の基準であって、将来FCFの金額と成長率をいかに確度高く見積もれるかが該社にとってのバリュエーションの中心事項だということになるので、無謀な投資をしている訳ではない、ということならそこの手法の説明をする必要があるはずですが、残念ながらその辺りには説明会では踏み込まれていません。

 

孫さんは毎度々々の決算発表で「株主価値(=保有株式の時価から純負債を差し引いた価額)」と比較して株価が随分と安いことを嘆いています。HPにも分かり易く記載されていますが、この記事を執筆している時点で、株主価値は一株あたり11,261円、株価は4,494円で、優に▲60%以上の「バフェットプレミアム」ならぬ「孫正義ディスカウント」がかかっています。株主価値のうち7,727円はアリババ株で純負債額が3,384円ですから、現状該社の株価はほぼアリババ株で担保されているようなものです。孫さんの野望が単にアリババで一山当てた金持ちの夢想で終わるのか、そうでないのか、個人的には今後も目が離せません。ちなみに私は孫さんが好きなので応援しています。

 

話は逸れましたが、上記は巷でユニコーンと呼ばれるような急成長企業に該当する話であって、事業承継が問題になるような成熟した中小企業には当然そのまま該当する訳ではありません。ただ、FCFと成長ポテンシャルを基準に考える方法は中小企業のM&Aにおいても有意義だと思いますし、逆にその辺りの中小企業の企業価値算定について各関係当事者にとっての主観的価値にかなりの幅がある(=ビジネスチャンスがある)からこそ、中小企業のM&Aを専業とする会社が繁栄している訳です。診断士的には、そこでぼろ儲けするのはどうなのかな、と感じつつも、黒字倒産が深刻な課題と言われるなか公益に適っていることは否定し難いのも事実です。本当はこの辺りに診断士が組織的に食い込んでいければ、もっと良い価値配分が達成できるのではないかな、とは思います。

 

長くなりました。中小企業の事業承継やM&Aにかかる企業価値算定については、またいつか記事を書きたいと思います。

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