企業内診断士Rのブログ

診断士登録7年目。企業で働く中小企業診断士のブログ。

中小企業診断士とは~原点回帰と独占業務の可能性

診断士Rです。

 

前回記事の続きで、本日は中小企業診断士とは何か、またその可能性について個人的な考え方を記載していきたいと思います。※前回同様、論説調の記事になります。

bluelart.hatenablog.jp

 

 

企業「診断」とは

前回記事の末尾を再掲する。

少なくとも、「診断士=コンサルタントと定義した瞬間に、診断士のプレゼンス向上には繋がらなくなるように思う何でもありになってしまい、逆に言えば何者でもなくなってしまうからだ。独占業務など望むべくもない。

診断士の根拠法とされる中小企業支援法には、「中小企業の経営診断の業務に従事する者」と記述されている。コンサルティングというと、法律的には「経営に対する助言」とか書きそうなものだが、敢えて「診断」という経営の場面では耳慣れない言葉を使っているのは、意味があってのことだと思う。その原点に立ち返ることが必要だと個人的には考えている。

 

中小企業診断士とは文字通り、経営「診断」を業とするものである。経営における「診断」とは、専門家による客観的な判断、といったところだろう。

つまり、診断士が「診断」士たる所以は、本来的には中小企業の経営状態や今後の事業計画を客観的に判断することにあり、コンサルティングにはない。ではなぜ「診断」が必要なのか。それは情報の非対称性の解消のためだ。

 

中小企業における「情報の非対称性」

ここで構図が似ているものとして、公認会計士による財務諸表監査を考えたい。大企業においては、経営者と株主や債権者との利害調整において正確な財務諸表の存在が不可欠であり、また金融市場の効率性も、企業による適切なディスクロージャーを前提として成り立っている(cf. アカロフのレモンの市場)。つまり、経営者と株主や債権者の間に存在する情報の非対称性を、監査済みの財務諸表によって解消していると言える。

 

一方で中小企業の場合は、財務諸表監査が義務でないばかりか、そもそも財務諸表の作成義務もない会社が殆どだろう。経営管理目的で各計算書類は作成しているだろうが、会計基準への準拠は求められない。であるが故に、中小企業と債権者、すなわち銀行との間には、大企業とのそれ以上に大きな情報の非対称性が存在する。それが将来の事業計画ともなれば尚更である。大企業と異なり株主からの統制も効かない。一方で銀行員も財務の専門家でこそあれ、ビジネスの専門家ではないから、その適切な査定は難しい(中小企業に対してはそもそも一人が担当する企業数も多く、時間的制約も厳しい)。

 

結果として、ただでさえ低金利で貸倒リスクの許容水準が低いなか、リスク評価の限界から中小企業に対する融資は平時においても担保差入か個人保証が前提とならざるを得ない。まして今のような信用収縮局面に際しての無担保貸付など民間金融機関にできようはずもない。

※この辺りの話題は、手強い危機対応診断士さんの記事が非常に勉強になる。独立を考える診断士であれば、金融機関の論理と実情への理解は必須と思う。僭越ながら、お勧めさせていただきたい。

 

中小企業診断士の可能性

そこで中小企業診断士の出番となる。中小企業の経営状況や事業計画を「診断」し、一定の保証を与える役割だ。事業の将来性について保証を与えるのは容易ではないかもしれない。しかし、診断士のカバーすべき領域は、然るべきデータとロジック、そして経営知識に裏付けられた戦略であって、アイデア勝負のビジネスではない。後者は相応のリスクを負うべき資金(VC等)に任せるべき領域だ。勿論、いかにデータとロジックに裏付けられた戦略であっても所詮は人の営み、絶対はない。しかし確率論では間違いなくうまく行く可能性の方が高いはずだ。結局のところ金融機関の理屈も確率論(利ざや-融資額×貸倒リスク)である以上、そこに付加価値はあると考える。

 

個人的には、そうした中小企業の経営状態、事業計画に対する保証業務を診断士の独占業務にしてはどうかと思う。類似するものとして今も「経営革新計画」認定制度があるが、承認機関はあくまで国である。例えばその認証機能を各診断士(或いは法人)に降ろすことから始めてはどうだろうか。

 

独占業務に付随するもの、その難しさ

ただことはそれほど簡単ではなく、困難な問題が少なくとも二つほどある。一つは損害賠償の問題だ責任の伴わない肩書に価値はない。独占業務化するならば、損害賠償の義務を避けることは不可能だろう。

 

ここでもやはり、公認会計士監査が参考になる。大企業の財務諸表では「継続企業の前提(=企業の事業継続に重大なリスクがないという前提)」に関する経営者の意見表明が求められ、監査人はそれが適正かどうか判断する義務を負う。過去米国で不況時に企業の倒産が相次いだ際に、直近財務諸表に適正意見を付与した会計士が訴訟で多額の損害賠償責任を問われるという苦い歴史も経て、財務諸表監査においては職業団体が適正な監査手続きを標準化・明文化する努力を絶え間なく続けてきた結果、現在はかなり高い水準で責任の線引きを実現している。診断士協会も、その辺りの仕組みの整備を真剣に検討するべきではないだろうか。もっとも、事業計画の妥当性評価は会計情報のそれよりも遥かに標準化のハードルが高く今の協会に務まるとも思えない。中企庁の優秀な官僚のサポートも期待したいところだ。

 

もう一つ、難しいのは独立性の保持の問題。診断士の認証が与信に影響すれば当然会社と診断士の癒着が生じ得る。ここについては、診断士の個人別の認証実績及びその企業の返済実績をデータベース化し、公開してはどうかと思う。現在の情報技術があれば難しい話でもないだろう。そうすれば癒着によって短期的には利益を上げられたとしても、不良債権化に繋がれば診断士の信用は損なわれ長期的には損になる。この辺りは、直接金融市場で保証業務とその結果が必ずしも明瞭でない会計士では実現できない、診断士ならではの仕組みだろう。

 

最後に

なお、上記の議論は、診断士が全面的に企業の側に立ち、経営に対する助言(=コンサルティング業務)を行うことを否定するものではない。ちょうど監査法人が企業に対してM&Aアドバイザリー等のサービスを提供するのと同じように、その辺りは自由競争のマーケットであって、各診断士が自身の裁量で行えばよい

 

コロナによる信用収縮(しかも実体経済の深刻なダメージを伴う)に際して、公庫と保証協会頼みの構図が浮き彫りになり、中企庁も改めて中小企業への与信問題に対する課題感を新たにしたものと思う。

また平時においても、カネ余りの環境にあって補助金ではなく民間資金で中小企業の成長投資が実現されていくことが経済原理上望ましいし、民間金融機関にとっても、今までリスク評価の限界から適正に評価できていなかった優良案件に貸せるならwin-winである。

 

協会も、凝りもせず高額な費用を取って実務従事など提供する前に、そうした課題感と真摯に向き合い、診断士の地位向上、中小企業の発展に取り組んで欲しいものである。

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