企業内診断士Rのブログ

診断士登録7年目。企業で働く中小企業診断士のブログ。

企業内診断士の実情~理論と実践③・アーキテクチャ

診断士Rです。

 

企業内診断士として、勉強したことがどのように役立っているかの第三回です。シリーズものとして、過去記事も少し改題してみました。第一回は「標準原価計算(財務・会計)」、第二回は「データベース理論(経営情報システム)」です。前回記事はこちら。

bluelart.hatenablog.jp

 

第三回は、アーキテクチャ(運営管理)」です。今まで会計やシステムのことを書いてきましたが、実はこの運営管理が私のド専門(大学時代の専攻)で、最も得意とする領域です。一次試験の時も、この科目に関してはスピードテキストをざっと一読した程度の記憶しかありません。

 

 

アーキテクチャとは

診断士試験では概念程度の勉強になりますが、アーキテクチャとは本質的には設計思想のことで、

 インテグラル・アーキテクチャ→各部品の擦合せによって製品の機能を実現

 モジュラー・アーキテクチャ →各部品の組合せによって製品の機能を実現

と説明されます。アーキテクチャ理論は、製造業の類型論を展開する際に有効な理論である一方で、実際の企業経営においても示唆に富む理論です。我が国の自動車産業は伝統的にインテグラル・アーキテクチャによって発展してきたが、国際競争に対応する為にモジュラー・アーキテクチャの考え方も導入している、という文脈は有名ですね(例:トヨタのTNGA=Toyota New Global Architecture)。

 

アーキテクチャ概念の拡張

アーキテクチャの概念は複数の部品を組み立てて製品を完成させる加工組立型産業で説明されることが多いですが、実は装置産業も含めて適用できるとても汎用的な概念です。加工組立型産業では構成要素を各部品をみるところを、装置産業の場合は各プロセス(或いは更にブレークダウンして各装置の操業条件)と置き換えれば良いのです。

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加工組立型産業・装置産業におけるアーキテクチャの概念

 

インテグラル・アーキテクチャ(擦合せ型)は、実現したい機能を高い水準で実現できる一方で、製品に対する専用部品が増え、部品製造の段取増や在庫増といった非効率を生む要因にもなる、と教科書には書いてありますが、実はこれ、装置産業でもそのまま当て嵌まります。

 

アーキテクチャ理論の応用

ある程度以上の規模の製造業であれば、独立した設計部門がお客様のニーズに即して製品の仕様及びそれを製造する為の製造方案を立案するのが普通です。製造部門はその指示に従って製造を進める訳ですが、設計の段階で製造局面の全体的な効率性までしっかり考慮されているケースは稀です。加工段階での良品率を保つために上流工程でやたら特殊な製造条件が設定されたり、注文ロットがとても小さいのに段取替えを要するような工程設計をする、等が想定されます。

特に設計部門内での標準化の程度が低く属人性が高い状態だと、最悪の場合同じような仕様の製品でも異なる製造方法が規定されている、といった事態が起こり得ます。これは、設計部門と製造部門の人的分離や、組織の肥大化が進んだ大企業の方が、むしろ起こりやすいと言えるかもしれません。

 

そうした問題を解決する為の一つの手段は、製造部門が「各工程のスループット」や「在庫量・リードタイム」等を継続的に測定・評価し、製品数や製造条件との関係を分析した上で(ここが大事!)設計部門にフィードバックし、製造の効率化、すなわち過度な操業条件の複雑化や厳格化の緩和、類似操業条件や中間製品仕様の統合などを求めていく体制をつくることです。更には、製造方案の立案に際して設計部門担当者のセンスや経験に頼る余地を縮小し、工程ごとに操業条件を一定の範囲ごとにグルーピングして疑似的にモジュール化し、その組合せで製造方案を作成していく、ということも理論的には考えることができます(簡単なことではありませんが)。

 

中小企業支援のために

アーキテクチャ理論を概念的な部分だけサラッと勉強するだけでは、自動車メーカーのように加工組立型産業においてサプライチェーン全体に影響力を行使し得る大企業ならいざしらず、多くの場合その一部を担うに過ぎない中小企業と関連付けることは難しいのではないかと思います。ですが、少し考え方を拡張して実践の場面を想像できるだけで、途端に活きた知識になります

 

中小企業の場合は大企業と比較して、組織内の連携の弱さに起因する非効率性は生じにくいと想定されますが、そもそも「設計と製造の最適化」という概念をあまり持っておらず、改善ポテンシャルが大きく残っているケースも多いのではないかと推察しています。その辺りまで踏み込めると、製造業支援もかなり厚みが出てくるのではないでしょうか。

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